老兵は死なず! 第2章
そんなある朝、ゴルビー畑の道路で作業の準備をしていると
「おはよう!」
いつものようにリュウを連れたお父さんがニコニコ挨拶してくれました。
私もいつものようにリュウを撫でまわしながら
「今日も遠くまで散歩するんですか?」
「うん、一万二千歩は歩くからね」
「え〜、一万二千歩もですか!すごいですね!」
「持病があって運動しなきゃいけないからさ、薬も8種類飲んでんだ!」
この言葉で私のどこかでスイッチが入りました!
最近、なぜか薬の話になるとアドレナリンが出まくります。
この前も福岡に住んでる幼馴染と健康の話になり、友達が
「俺、薬3種類飲んでるんだよな」と言うとすかさず
「俺なんか6種類だもんね〜、勝ったな!へへへ〜んだ!」
と優越感に浸っています。
どこで、何を勝負しているのか分からないけど、薬の話になると急に対抗意識が目覚めてきます。
多分、その後に続く「凄いね!」の言葉が、小さい頃からほめられたことがない私には嬉しくて癖になっているんじゃないかと分析しているのですが。
この日もお父さんの言葉に脊髄反射しました!
「私も薬6種類飲んでんですよ!」
数じゃ負けてるけど、この歳で6種類は大したもんでしょっ! さあ、ほめてっ!ほめてっ!
「ヘェ〜、どこが悪いの?」
「心臓と糖尿病です!」
どうです、立派な成人病でしょう! さあ、ほめてっ!ほめてっ!
「心臓って、どうしたの?」
「まァ、心臓って言っても循環器系で不整脈と高血圧なんですけどね」
「ふ〜ん、俺カテーテル入れてるんだよね・・・」
えっ、そ〜なの!
「糖尿病悪いの?」
「いやぁ〜、ちょっと血糖値高いもんで医者に脅かされて薬飲んでるだけなんですけどね」
「ふ〜ん、俺インスリン注射してんだよね・・ 終わったよ。 おッ わッ りッ・・・フフッ」
・・・本物です。
本物の剛の者です!!
動揺した私は聞かずもがなな事を聞いてしまいました。
「でもお酒は飲むんでしょう?」
なんという愚問を!
「お酒?」」
「酒はやめた。酒呑むと食べちゃうからね。だから酒はやめた!」
「終わったよ。 おッ わッ りッ・・・フフッ」
私のような紛いものじゃない、本物の歴戦の勇士です!!
私はリュウを撫でるのも忘れて、昇ったばかりの朝日に照らされてまぶしく輝くお父さんの穏やかな笑顔を、まるでKOされたボクサーのようにただ仰ぎ見ることしかできませんでした。
「それじゃまたね。仕事頑張ってね!」
お父さんはいつものように優しい笑顔でリュウを連れて歩き出しました。
リュウは何度も何度も私の方を振り返り、申し訳なさそうに何度も頭を下げながらついて行きました。
もしかしたら私に助けを求めていたのかもしれません。
私はただ立ちつくし、遠く小さくなって行く二人の姿を見送っていました。
そして、その後ろ姿にそっと心の中で敬礼をしました。
何故かそうしなければいけないような気がしたんです。
Old soldiers never die~
老兵は死なずただ立ち去るのみ!
無名戦士の一万二千歩の旅は今日も続くのです。
頑張れ!
頑張れっ・・・リュウ!
敬礼っ!!